知的財産権に関してよくある素朴な質問(2):早く特許を取得したい

Q&A

特許権を取得するには普通最低1年はかかる

特許権を取得する為には、特許出願の日から3年以内に審査料を添えて出願審査請求を行い、特許要件を満たしているか否かの審査を受けなければなりません。そのため、特許出願と同時に出願審査請求を行い最初の審査結果が特許査定である最短のケースであっても、特許権の取得は特許出願の日から約1年後になります。特許権の取得が特許出願の日から5年以上経過した後になることも珍しくないことです。

ところで、次のようなご相談を受けることがあります。

・今後のビジネス展開の中心となる発明について、特許を取れるものなら早く取りたいので、早く取る方法はないですか?
・新たな技術を用いた商品の商品化スケジュールがすでに決まっています。商品の販売開始前に特許を取りたいのですが、早く取る方法はないですか?

早期に特許権を取得する方法はある

早期の特許権取得を可能にする方法として、“早期審査”、“スーパー早期審査”があり、日本に加えて外国でも早く特許権を取得したい場合には“特許審査ハイウェイ”を利用することができます。まずはこれらの制度について簡単に説明します。

◎早期審査

特許出願が、
(1)出願人またはそのライセンシーがその発明を2年以内に実施する予定であること(実施関連出願)、(2)出願人がその発明を外国出願または国際出願もしていること(外国関連出願)
(3)出願人の全部または一部が、中小企業、個人、大学、公的研究機関などであること、
(4)発明が省エネやCO削減などの効果を有する環境関連技術に関するものであること(グリーン関連出願)、
(5)震災復興支援関連出願であること、
(6)アジア拠点化推進法関連出願であること、
のいずれかの要件を充足する場合には、出願審査請求の日以降に必要事項を示した早期審査の事情説明書を提出することにより、早期の審査を受けることが可能です。ベンチャー企業による実施関連出願の場合には、面接活用審査の申請も可能です。早期審査の対象と判断されれば、事情説明書の提出から約2か月後には最初の審査結果を受けることが可能です。

◎スーパー早期審査

特許出願が、
(1)実施関連出願であり外国関連出願でもあること、
(2)ベンチャー企業による実施関連出願であること、
のいずれかの要件を充足する場合には、出願審査請求の日以降で最初の審査結果の通知前であれば、スーパー早期審査を希望することやその他の必要事項を示した早期審査の事情説明書を提出することにより、スーパー早期審査の申請をすることが可能です。ただし、ベンチャー企業が面接活用審査と併用することはできません。また、スーパー早期審査の申請も含めて申請前4か月以降のすべての手続をオンライン手続で行わなければなりません。スーパー早期審査の対象と判断されれば、早期審査の事情説明書の提出から1か月以内には最初の審査結果を受けることが可能です。

◎特許審査ハイウェイ

特許審査ハイウェイは、日本と外国(現在は55か国)の特許庁の取り決めに基づき、第1国の特許庁で特許可能と判断された発明のみについての特許化を希望する第2国の出願について、第2国の特許庁に簡易な手続をとるだけで早期審査を受けることができるようにした制度です。国際的な特許戦略をとるときに利用価値が高い制度です。

さて、早期審査等によって早期に特許権を取得することができれば、それだけ特許権の存続期間を長くすることができ、長期にわたって取得した特許権によって自己の技術力をアピールすると共に競合他社の模倣を排除することできます。特に、自社が特許の対象となる製品を早くから市場に投入する場合には、高い製造能力や販売能力を有する競合他社によりその製品が模倣すされると、自社製品が売れずに甚大な被害を受けてしまいますので、この危険を回避するために早期の特許権取得が望まれます。その他、ライセンス契約につなげて早くから実施料収入を得ることもできます。

だけど早期の特許権取得はデメリットもある

しかし、早期審査等にはメリットばかりでなく以下のようなデメリットも存在します。

1)拒絶査定になることがあります。
早期審査等を申請した結果、残念ながら拒絶理由があると判断されて早期に拒絶査定が確定してしまうと、もはや「特許出願中」の表示ができなくなり、自己の技術力のアピールや競合他社の模倣の排除のための時間が直ぐに終わってしまいます。拒絶査定の確率を下げるためには、特許出願の前だけでなく出願審査請求の前にも先行技術調査をして特許権取得の可能性を検討し、拒絶理由が予想されるのであればその範囲を予め削除した上で出願審査請求及び早期審査等の申請を行うことが安心です。

2)改良発明等を追加した出願が不可能になることがあります。
特許出願後の検討によって、発明の範囲がシフトしたり、発明の範囲が広がったり、効果的な改良発明がなされたることは良くあります。特許出願の日から1年以内であれば、これらの発明を追加して一つの特許出願にまとめる国内優先権制度を利用することができます。しかし、早期審査等によって早期に特許査定あるいは拒絶査定が確定してしまうと、もはや国内優先権制度を利用することができません。

3)発明が早期に公開されてしまうことがあります。
特許出願は原則として出願の日から1年半が経過した後に公開され、誰でも特許出願の内容を知ることができるようになりますが、出願から公開までの期間は秘密が保たれます。そして、この秘密期間は、出願当初は気づかなかった技術的な課題に対応した新しい発明や改良発明を他者に先んじて行うことによって自己の事業を有利に進めるための貴重な期間です。しかし、早期審査等によって早期に特許権が発生すると、その後すぐに特許の内容が公開されてしまいます。そして、自己の新しい発明や改良発明であっても公開された内容によって拒絶されることがあり、競合他社が公開された内容を参考にして自己の事業の妨げとなる特許出願を思いつくこともあります。

4)特許出願後に発生した事情を反映させにくくなります。
特許出願後の自社や競合他社の事業状況によっては、特許化すべき発明を変更することが望ましいことがあります。このような場合に手続補正や分割出願といった方針がとられることがありますが、早期審査等によって早期に特許査定または拒絶査定が確定してしまうと、これらの方針をもはや選択できなくなります。

大事なこと

出願審査請求及び早期審査等の申請の時期は早いほど良いとか遅いほど良いとかいうものではなく、自社の研究開発方針、自社製品の市場投入その他の事業方針、競合他社や模倣品の有無、特許取得確率などを総合的に考慮に入れて適切な時期に行うことが望まれます。

早期の特許権取得に関するご相談も佐竹特許事務所へ

以上、早期の特許権取得について簡単に説明しましたが、簡略化した説明ですので、詳細は佐竹特許事務所までお尋ねください。