詳細説明 【意匠】

◀ 意匠の業務

A)保護対象

保護対象は「意匠」です。

意匠とは、「物品(物品の部分を含む。)のデザイン(形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合)、建築物(建築物の部分を含む。)のデザイン(形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合)、または画像(画像の部分を含む。)であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」を意味します。

物品及び物品の部分のデザインについて説明すると、物品の取引や使用の場面において一定の形状を有し、肉眼で認識できるデザインであれば、椅子の外観のような物品全体に関するデザインであっても、スプーンの柄の形状のような物品の部分に関するデザインであっても、びっくり箱のように物品の形状がその物品の機能に基づいて変化する場合にはその変化の前後にわたる形態についても、保護の対象となります。

しかし、あくまで物品或いは物品の部分に関するデザインに関するものであることが必要であり、物品から離れて、形状だけ、模様だけ、色彩だけを抽象的に創作しても、保護の対象にはなりません。また、物品の外観に現れるデザインであることが必要であり、物品の取引や使用の場面において外観に現れない内部構造のデザインは保護の対象ではありません。さらに、液体や粉粒のように、形状が特定されないものや肉眼で確認できないものも、保護の対象ではありません。

また、物品或いは物品の部分のデザインは、視覚を通じて美感を引き起こすものでなければなりませんが、高度の美感を引き起こすことが要求されているのではなく、何らかの美感を引き起こすことができればそれで足ります。美感を起こさせないものの例としては、・機能や作用効果を主目的としたもので美感をほとんど起こさせないもの、・意匠としてまとまりがなく、煩雑な感じを与えるだけで美感をほとんど起こさせないもの、が挙げられています。

建築物は、土地に定着されている人工構造物であることが必要ですが、通常の使用の状態で内部のデザイン(形状・模様・色彩・これらの結合)が視認できるのであれば、内部のデザインについても保護対象となります。

画像については、すべての画像が保護対象となるのではなく、機器の操作の用に供される画像(対象の機器がその機能に従って働くようにするための指示を与える画像)及び対象の機器がその機能を発揮した結果として表示される画像のみが保護対象となります。物品や建築物の表示部に表示される画像であっても、上述した範囲内の画像であれば、保護対象となります。

B)権利取得手続

① 意匠登録出願

◎出願書類

意匠権を取得するためには、権利を取得しようとする意匠を特定して意匠登録出願をしなければなりません。

意匠登録出願に当たっては、意匠の創作者、出願人、意匠登録を受けようとするデザインが施される物品(建築物の用途・画像の用途)を特定した【願書】を準備する必要があります。また、願書には原則として意匠を記載した図面を添付しなければなりませんが、図面を写真、雛形または見本で代用することが可能です。

出願人は、創作者(自然人)か、創作者から出願の権利を譲り受けた人(自然人または法人)でなければなりません。意匠権は、創作者ではなく、出願人に付与されます。

物品(建築物の用途・画像の用途)の内容が不明確である可能性がある場合には、願書の「意匠に係る物品(建築物の用途・画像の用途)の説明」の欄で補足説明を行います。また、必要に応じて図面に記載された意匠の理解を助けるための説明を、願書の「意匠の説明」の欄に記載します。

願書における「意匠に係る物品(建築物の用途・画像の用途)」、「意匠に係る物品(建築物の用途・画像の用途)の説明」、「意匠の説明」の記載と、願書に添付した図面、写真、雛形若しくは見本に表された意匠、との両方によって、登録を受けようとする意匠が特定されます。

◎特別な制度

意匠の創作過程や流通過程を考慮して、以下に示す特別な制度が設けられています。

 ・組物の意匠制度

意匠登録出願は、1つの物品、建築物または画像について1つの意匠を特定して行うのが原則ですが、同時に使用される2以上の物品、建築物または画像からなるセットであって、組物全体として統一的な美感を起こさせるものについては、例外的に1意匠として出願することが可能です。

 ・内装の意匠制度

店舗などの施設の内装を構成する複数の物品、建築物または画像の組み合わせについても、内装全体として統一的な美感を引き起こすものであれば、一意匠として出願することが可能です。

 ・秘密意匠制度

意匠の内容は登録後に公開されますが、公開時点で実用化に至っていないと、第三者の模倣により登録の価値が失われてしまうことがあります。このような場合に、意匠権の設定登録の日から3年以内の期間を指定して、その期間だけ登録内容を秘密にすることを請求することができます。

 ・関連意匠制度

ひとつのコンセプトの下で複数のバリエーションの意匠を創作することもあり、モデルチェンジなどにより出願後にデザインを少し変更したいこともあります。このような場合に、自己が先に出願した出願中の意匠或いは登録後の意匠のうちから一の意匠を本意匠として選択し、本意匠に対して様々なバリエーションを加えて創作された本意匠に類似する意匠について、最初に選択された本意匠(基礎意匠)の意匠登録出願の日から十年を経過する前であれば、関連意匠として出願することが可能です。

◎早期の権利化

現在のところ、建築物、画像、及び内装の意匠には適用されませんが、それ以外の意匠については、以下の(i)及び(ii)の両方の要件を満たせば早期審査の請求をすることが可能です。早期審査の請求をすると、審査官が早期審査の対象とするかを判断し、対象となれば請求後2ヶ月程度で「登録査定」又は「拒絶理由」が届きます。

(i)出願人または出願人から許諾を受けたライセンシーが出願された意匠を実施しているか或いは実施の準備を相当程度進めていること、

及び、

(ii)第三者が許諾なく出願された意匠或いは出願の意匠に類似する意匠を実施しているか又は実施の準備を相当程度進めていることが明らかであること、または、出願された意匠の実施或いは実施の準備について第三者から警告を受けていること、または、出願された意匠について第三者から実施許諾を求められていること、または、出願人が出願の意匠について外国へも出願していること

② 登録性の審査

意匠登録出願の内容は、権利発生前には公開されません。

方式審査と実体審査は出願の全件について行われます。方式審査では、書類が整っているか、必要事項が記載されているか等が審査されます。実体審査では、願書や図面の記載が登録要件を満たしているか否か、登録すべきでない理由が存在するか否かが審査されます。審査の結果、登録要件を満たしていれば「登録査定」がなされ、登録要件を満たしていなければ「拒絶理由」が通知されます。

以下に、主な登録要件を示します。

  • 保護対象の意匠であること
  • 意匠が工業において利用することができること(量産性)
  • 意匠が出願時点で守秘義務のない者に知られていないこと、出願時点で既に知られている意匠と類似した意匠でないこと(新規性)
  • 意匠が出願時点で既に知られている形状や模様等のモチーフから容易に考えられたものでないこと(創作非容易性)
  • 他人より先に意匠登録出願していること
  • 意匠が、既になされた他人の意匠登録出願の出願書類に記載された意匠の一部と同一または類似する意匠でないこと
  • 公の秩序、善良の風俗を害するおそれがないこと
  • 他人の業務に係る物品と出所混同を生ずるおそれがないこと
  • 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠、建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠、或いは、画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠でないこと
  • 複数の無関係な意匠が記載されていないこと

③拒絶理由通知への対応

 拒絶理由が通知された場合には、必要に応じて登録要件を満たすように補正した補正書を提出するとともに、登録要件を満たしている旨の反論を記載した意見書を提出します。拒絶理由が通知されたにもかかわらず、補正書/意見書を提出しなかったときや、補正書/意見書を提出しても登録要件を満たしていないと判断されたときには、「拒絶査定」がなされ、意匠権取得が不可能になります。

 拒絶査定に不服がある場合には、拒絶査定不服審判を請求することが可能です。審判官による審理の結果、拒絶理由が不当であると判断されたときは「登録審決」が、拒絶理由が妥当であると判断されたときは「拒絶審決」がなされます。拒絶審決に不服がある場合には、知的財産高等裁判所に出訴することが可能です。

 また、補正は、補正書に示されたデザインやそのデザインが施される物品・建築物・画像が出願時のデザインやそのデザインが施される物品・建築物・画像から実質的に変更されていない範囲内でのみ可能です。審査において要旨変更と判断された場合には、補正が却下されます。補正の却下に不服がある場合には、補正却下不服審判を請求することが可能です。補正却下に承服するものの、却下された内容で意匠登録を受けたい場合には、補正却下に基づく新出願をすることが可能です。

④ 意匠権発生
「登録査定」または「登録審決」がなされれば、1年分の登録料の納付により設定登録がなされ、意匠権が発生します。また、登録意匠の内容が、意匠公報として一般に公開されます。秘密にすることを請求したものについては、指定された期間の経過後すぐに公報が発行されます。

C)権利内容

意匠権とは、「一定期間(存続期間中)登録意匠及びこれに類似する意匠を事業として独占的に実施することができる権利」です。但し、意匠の実施が他人の意匠権、特許権、実用新案権若しくは商標権若しくは著作権を侵害する場合には、当該他人の許諾が必要です。

登録意匠の範囲は、願書の「意匠に係る物品(建築物の用途・画像の用途)」、「意匠に係る物品(建築物の用途・画像の用途)の説明」、「意匠の説明」の記載及び願書に添付した図面、写真、雛形若しくは見本に表された意匠に基づいて定められます。

類似する意匠の範囲は、一般に用途と形態(形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合)の類否によって判断され、用途が類似で形態が同一、用途が類似で形態が同一、用途及び形態の両方が類似である意匠が類似する意匠です。

意匠権の存続期間は出願の日から25年ですが、関連意匠の意匠権は基礎意匠の出願の日から25年です。ただし、いずれも、2年目以降の登録料を前年までに支払うことが条件です。

意匠権者は、自ら登録意匠またはこれに類似する意匠を実施するほかに、他人に実施権(登録意匠またはこれに類似する意匠を実施する権利)を許諾することが可能です。また、通常の財産と同様、意匠権を譲渡することも可能です。さらに、登録意匠またはこれに類似する意匠の無断実施者に対しては、その実施が事業としての実施ではなく個人的・家庭的実施である、その実施が試験研究のための実施である、登録意匠と同一または類似の意匠を意匠登録出願より前から善意で実施していた等の特別事由に該当する場合を除き、差止請求や損害賠償の請求等をすることが可能であり、刑事責任を問うことも可能です。