詳細説明 【商標】

◀ 商標に関わる業務

A)保護対象

保護対象は「商標」です。

商標は、「事業者が、自己が取り扱う商品やサービスを他人の商品やサービスと識別し、商品やサービスの同一性を表示するために、その商品またはサービスについて使用するマーク」ということができます。

マークは特定の商品またはサービスのためのマークでなければならず、商品またはサービスが特定されていないマークそのものは保護対象ではありません。

現在のところ、以下のマークが保護対象となっています。

  • 文字商標:マークが文字のみで構成されている商標です。文字が特定の意味を有するかは問われず、造語であっても構いません。
  • 図形商標:マークが図形だけで構成されている商標です。写実的な図形に加えて、図案化された図形、幾何学的図形、文字を図形化したものなどが挙げられます。
  • 記号商標:マークが記号だけで構成されている商標です。暖簾、紋章、屋号、文字を輪郭で囲んだもの、アルファベットをモノグラム化したもの(例:ルイ・ヴィトンのLVマーク)などが挙げられます。
  • 立体商標:マークが立体的形状から構成されている商標です。キャラクター人形、商品の容器、商品の形態などが挙げられます。
  • 色彩商標:マークが、輪郭がなく単色または複数色の色彩のみから構成されている商標です。
  • 結合商標:マークが、文字、図形、記号、立体的形状、色彩の二つ以上の要素を組み合わせることによって構成されている商標です。
  • 音商標:マークが音楽、音声、自然音等から構成されている商標であり、聴覚で認識される商標です。
  • 動き商標:マークに使用されている文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。
  • ホログラム商標:マークに使用されている文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化し、見る角度によって変化して見える商標です。
  • 位置商標:マークが、文字、図形、記号、立体的形状、これらの組み合わせ、或いはこれらと色彩との組み合わせによって構成されている商標であって、マークを商品等に付す位置が特定されている商標です。

B)権利取得手続

①商標登録出願

◎出願書類

商標権を取得するためには、権利を取得しようとする商標を特定して商標登録出願をしなければなりません。

商標登録出願に当たっては、出願人、使用するマーク、及びそのマークを適用する商品またはサービスの範囲を特定した【願書】を準備する必要があります。

出願人は、商標を使用する事業者(自然人または法人)であり、出願人に商標権が付与されます。

願書におけるマークの記載と商品またはサービスの記載との両方によって、登録を受けようとする商標が特定されます。複数のマークを一つの願書に含めることはできません。また、商品またはサービスは、定められている区分に従って、区分ごとに記載しなければならず、区分が増えるごとに出願料が加算されます。

◎特別な制度

商標により「事業者の信用・ブランド」が保護されるという観点から、以下に示す特別な制度が設けられています。

  • 防護標章登録出願
    全国的に周知となっている商標(著名商標)の権利者が行う出願であり、自己の商標権に係る商品またはサービスと非類似の商品またはサービスについて、他人の使用を阻止することを目的として行う出願です。自己が使用することを目的とした出願ではありません。
  • 団体商標登録出願
    社団法人、事業協同組合等の事業者を構成員に有する団体は、その構成員に共通に使用させるための商標について、団体商標として出願をし、登録を受けることができます。団体商標は、商品またはサービスの出所がその団体の構成員であることを明らかにするために用いられます。
  • 地域団体商標登録出願
    「地域名と商品名」、「地域名とサービス名」、「地域名と商品名またはサービス名と慣用文字(特産、名産、本場、等)」からなる「地域ブランド」が隣接都道府県に知られている程度の周知性を得ていれば、事業協同組合、農業協同組合等の団体は、その構成員に共通に使用させる地域ブランドを、地域団体商標として出願することにより、登録を受けることができます。地域団体商標は、文字のみから構成されていなければなりません。

◎早期の権利化

出願人が出願された商標を既に使用している、使用の準備を相当程度進めている等の事情がある場合には、早期審査の請求が可能です。早期審査の請求をすると、審査官が早期審査の対象とするかを判断し、対象となれば請求後1.5ヶ月程度で審査結果(「登録査定」または「拒絶理由」)が届きます。

また、願書におけるマークの記載や商品またはサービスの記載が所定の範囲内であれば、ファストトラック審査の対象となります。早期審査のような特別な申請は必要ありません。ファストトラック審査の対象であれば、出願後6か月程度で審査結果(「登録査定」または「拒絶理由」)が届きます。

②出願内容の公開

他者が出願内容を知らずに同一の商標の使用を開始すると、商品の出所の誤認が生じる等、不測の不利益が発生することがあります。このことを回避するため、出願書類の内容が出願から約1カ月経過後に一般に公開されます。

③審査

出願の全件について方式審査と実体審査が行われます。方式審査では、書類が整っているか、必要事項が記載されているか等が審査されます。実体審査では、願書の記載が登録要件を満たしているか否か、登録すべきでない理由が存在するか否かが審査されます。審査の結果、登録要件を満たしていれば「登録査定」がなされ、登録要件を満たしていなければ「拒絶理由」が通知されます。

以下に、主な登録要件を示します。

  • 自己が提供する商品または役務のために使用する商標であること
    保護対象ではないマークはこの要件を満たしません。また、商標の使用や使用意思が疑わしい商標もこの要件を満たしません。
  • ありふれた商標ではなく、自己の商品または役務と他者の商品または役務とを区別することができること(識別性)
    商標は自己が取り扱う商品やサービスを他人の商品やサービスと識別するために使用するものですから、商品やサービスを説明しただけの文字商標や、商品が通常発する音や単音のみからなる音商標などの、特定の者の出所表示として需要者に認識されることが無い商標は、識別性の要件を満たしません。色彩商標は、その色彩を使用した結果特定の者の出所表示として需要者に認識されるようになっていることが必要となります。
  • 他者が先に登録している商標、他社の周知商標や著名商標と同一でなく類似もしていないこと
  • 公共の機関が使用しているマークと類似している、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある、品質を誤認させるおそれがある等、公益に反する商標でないこと
  • 複数のマークが記載されていないこと、商品または役務が区分に従って記載されていること

④拒絶理由通知への対応

拒絶理由が通知された場合には、必要に応じて登録要件を満たすように補正した補正書を提出するとともに、登録要件を満たしている旨の反論を記載した意見書を提出します。拒絶理由が通知されたにもかかわらず、補正書/意見書を提出しなかったときや、補正書/意見書を提出しても登録要件を満たしていないと判断されたときには、「拒絶査定」がなされ、商標権取得が不可能になります。

拒絶査定に不服がある場合には、拒絶査定不服審判を請求することが可能です。審判官による審理の結果、拒絶理由が不当であると判断されたときは「登録審決」が、拒絶理由が妥当であると判断されたときは「拒絶審決」がなされます。拒絶審決に不服がある場合には、知的財産高等裁判所に出訴することが可能です。

また、補正は、補正書に示されたマーク或いは商品・サービスが願書に示されたマーク或いは商品・サービスから実質的に変更されていない範囲内でのみ可能です。審査において要旨変更と判断された場合には、補正が却下されます。補正の却下に不服がある場合には、補正却下不服審判を請求することが可能です。補正却下に承服するものの、却下された内容で商標登録を受けたい場合には、補正却下に基づく新出願をすることが可能です。

⑤商標権発生

「登録査定」または「登録審決」がなされれば、10年分の登録料の納付(5年分ごとの分納が可能です)により設定登録がなされ、商標権が発生します。また、登録商標の内容が、商標公報として一般に公開されます。

⑥更新登録の申請(必要に応じて行う手続)

商標権の存続期間は10年ですが、権利消滅前に商標権の更新登録の申請をすることにより、さらに10年間の存続期間が認められます。更新登録の申請を繰り返すことにより、商標権を半永久的に存続させることが可能です。

C)権利内容

商標権は、専用権と禁止権とから構成されています。

◎専用権

専用権は、「一定期間(存続期間中)登録商標を事業として独占的に使用することができる権利」です。商標権を取得すると、登録を受けた商品・サービスに登録されたマークを独占的に使用することができます。

但し、登録商標の使用が他人の特許権、実用新案権、意匠権または著作権を侵害する場合には、当該他人の許諾が必要です。主に登録商標が立体商標である場合に許諾が必要となる場合があります。

◎禁止権

商標権を取得すると、他社が登録を受けた商品・サービスに登録されたマークを使用する行為を禁止することができます。

これに加えて、以下に示す他者の紛らわしい行為を禁止する権利も認められています。「類似」の範囲は、商品またはサービスの出所を間違えるほど似ている範囲です。

  • 登録を受けた商品・サービスと類似した商品・サービスに登録されたマークを使用する行為
  • 登録を受けた商品・サービスに登録されたマークと類似したマークを使用する行為
  • 登録を受けた商品・サービスと類似した商品・サービスに登録されたマークと類似したマークを使用する行為

商標権の存続期間は登録の日から10年(分割納付により5年分しか支払わなかったときは、登録日から5年間)ですが、更新登録の申請により、商標権を半永久的に存続させることが可能です。

商標権者は、自ら登録商標を使用するほかに、他人に実施権(登録商標を使用する権利)を許諾することが可能です。また、通常の財産と同様、商標権を譲渡することも可能です。さらに、登録商標の無断使用者に対しては、その使用が自分の氏名や商品の慣用名等を普通に表示したものに過ぎない、登録商標と同一の商標を商標登録出願より前から善意で使用しており既に著名になっている等の特別事由に該当する場合を除き、差止請求や損害賠償の請求等をすることが可能であり、刑事責任を問うことも可能です。

商標は登録しなくても使用することが可能ですが、登録をしないまま使用していると、他人がその商標について商標権を取得して差止請求や損害賠償の請求等をされるおそれがあります。事業の安定化のためには、商標登録を受けた上で商標を使用することが安心です。