A) 保護対象
保護対象は「発明」です。
発明は、「創作された技術的なアイディア」ということができ、化学物質、日用品、製造装置、動植物品種、コンピュータプログラムなどの「物の発明」と、物の製造方法、分析方法、使用方法などの「方法の発明」とがあり、広範囲の技術的アイディアが対象となります。
ビジネスを行う方法やゲームを行う方法などは、人間の精神活動や人為的取り決めにあたり、それ自体では技術的アイディアとはいえないため、発明に該当しません。しかし、コンピュータや通信回線などを用いて実現するシステムに発展させることができれば、発明に該当する場合があります。
「創作された技術的なアイディア」のうち、「物品の形状、構造又は組合せに関する技術的アイディア」は、実用新案の保護対象でもあり、このようなアイディアの保護のためには特許と実用新案のいずれかを選択することが可能です。実用新案権が実質的に無審査で登録され権利行使に慎重な対応が求められるのに対し、特許権は審査を経て付与され存続期間も長いことから、特許は、権利の安定性が求められる場合や、ライフサイクルが長い製品の保護のために利用される傾向にあります。
B) 権利取得手続
①特許出願
特許権を取得するためには、発明者、出願人、及び権利を取得しようとする発明を特定した出願書類を整えて、特許出願をしなければなりません。
出願人は、発明者(自然人)か、発明者から出願の権利を譲り受けた人(自然人または法人)でなければなりません。特許権は、発明者ではなく、出願人に付与されます。
権利を取得しようとする発明は、その内容が第三者に十分に理解されるように示されなければなりません。
②出願内容の公開
出願書類の内容は、原則として出願から1年6ヶ月経過後に一般に公開されます。出願から公開までの期間は、発明の秘密が保たれます。
早期の公開を請求することも可能ですが、公開後は秘密が保たれなくなるため、請求の判断は慎重に行われるべきです。
③出願審査請求
特許を取得する為には、出願審査請求書の提出と審査料の納付をし、特許庁審査官による審査を受けなければなりません。出願の日から3年以内に出願審査請求をしないと、出願を取り下げたものとみなされ、特許取得が不可能になります。
審査は原則として出願審査請求書が提出された順に行われますが、権利化を急ぎたい事情がある場合には、以下に示す早期審査制度或いは優先審査制度を利用することが可能です。
◎早期審査制度
出願が、(1)出願人または実施権者が2年以内に実施する予定であること、(2)外国出願または国際出願もしていること、(3)出願人の全部または一部が、中小企業、個人、大学、公的研究機関等であること、(4)省エネやCO2削減などの効果を有する環境関連技術に関する出願であること、(5)震災復興支援関連出願であること、(6)アジア拠点化推進法関連出願であること、のいずれかの要件を充足する場合には、早期審査の事情説明書を提出することにより、早期の審査を受けることが可能です。早期審査の対象と判断されれば、事情説明書の提出から約2か月後には最初の通知(「特許査定」又は「拒絶理由通知」)を受けることが可能です。
◎優先審査制度
出願公開後、第三者が特許出願に係る発明を事業として実施しており、出願人と実施者の間で生じている紛争を早期に決着する必要がある場合には、実施の状況、第三者による実施等による影響などを記載した優先審査に関する事情説明書を提出することにより、他の特許出願に先んじて審査を受けることが可能です。
④特許性の審査
出願審査請求後、特許庁の審査官により、出願された発明が特許法で規定された特許要件を満たしているか否かが審査されます。以下に、主な特許要件を示します。
- 発明であること
- 発明が産業において利用することができること
- 発明が出願時点で守秘義務のない者に知られていないこと(新規性)
- 発明が出願時点で既に知られているものから容易に考えられたものでないこと(進歩性)
- 他人より先に特許出願していること
- 発明が、既になされた他人の特許出願または実用新案登録出願の出願書類に記載されていないこと
- 公の秩序、善良の風俗、公衆の衛生を害するおそれがないこと
- 複数の無関係な発明が記載されていないこと
- 発明を他人が実施できるように出願書類に記載されているなど、一定の記載要件を満たしていること
特許庁審査官による審査の結果、特許要件を満たしていれば「特許査定」がなされ、特許要件を満たしていなければ「拒絶理由」が通知されます。
⑤拒絶理由への対応
拒絶理由が通知された場合には、必要に応じて特許要件を満たすように補正した補正書を提出するとともに、特許要件を満たしている旨の反論を記載した意見書を提出します。
補正書/意見書の内容により、拒絶理由が解消されたと判断された場合には、「特許査定」がなされ、新たな拒絶理由が生じた場合には、再度の「拒絶理由」が通知されます。
拒絶理由が通知されたにもかかわらず、補正書/意見書を提出しなかったときや、補正書/意見書を提出しても特許要件を満たしていないと判断されたときには、「拒絶査定」がなされます。
⑥拒絶査定への対応
拒絶査定に不服がある場合には、拒絶査定不服審判を請求することが可能です。審判請求をしないと、拒絶査定が確定し、特許取得が不可能になります。
審判官による審理の結果、拒絶理由が解消されたと判断されたときは「特許審決(特許査定をすべき旨の審決)」が、拒絶理由が解消されていないと判断されたときは「拒絶審決」がなされます。拒絶審決に不服がある場合には、知的財産高等裁判所に出訴することが可能です。
⑦特許権発生
「特許査定」または「特許審決」がなされれば、1~3年分の特許料の納付により設定登録がなされ、特許権が発生します。また、特許の内容が特許公報として一般に公開されます。
権利内容
特許権とは、「一定期間(存続期間中)特許発明を事業として独占的に実施することができる権利」です。但し、特許発明の実施が他人の権利を侵害する場合には、当該他人の許諾が必要です。特許発明の実施とは、以下の行為を言います。
- 物(プログラム等を含む)の発明の場合;その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)をする行為
- 方法の発明の場合;その方法の使用をする行為
- 物を生産する方法の発明の場合;その方法の使用をする行為、及び、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
特許権の存続期間は出願の日から20年ですが、医薬・農薬の発明の場合は、一定の要件を満たせば存続期間の延長が可能です。但し、いずれも、4年目以降の特許料を前年までに支払うことが条件です。
特許権者は、自ら特許発明を実施するほかに、他人に実施権(特許発明を実施する権利)を許諾することが可能です。また、通常の財産と同様、特許権を譲渡することも可能です。さらに、特許発明の無断実施者に対しては、その実施が事業としての実施ではなく個人的・家庭的実施である、その実施が試験研究のための実施である、その実施が特許出願の前から善意で行われていたものである等の特別事由に該当する場合を除き、差止請求や損害賠償の請求等をすることが可能であり、刑事責任を問うことも可能です。